何でもない日常の出来事や風景を、思いつきで『小説風に』書いて、悦に浸ってみるブログ
一日中冷たい雨が降っていた。
エス雄が長い残業を終えた深夜になっても、シクシクとした雨音がまだ聞こえている。
日付が変わる頃に地下鉄のホームを踏み、エスカレーターを上る。
不意に、若いお姉ちゃんの脚線美が視界に飛び込んで来た。
極端に短いショートパンツからスラリと伸びた脚はストッキングでうすら白く彩られ、眠気が吹き跳ぶほどにエロティックだ。
きっと神様が居て、激務で疲れきった自分の心を、ささやかながら癒そうとしてくれてるんだ。
エス雄は勝手にそう思い込みながら、目の前の御御足を見つめた。
霧のように細かく降りしきる雨は、街灯に照らされて埃が舞っているようにも見える。
人影を無くした公園は静まり返り、サラサラと傘に降り注ぐ雨音しか聞こえてこない。
木々の間からは漏れた街灯の光がひとすじに伸びていて、無意識の内にその上を辿って歩いた。
いつも晃晃とライトアップされているお城は既に灯が落とされ、真っ黒な塊となって暗い夜空に横たわっている。
よく見ると、天守閣にひとつだけ赤い警備灯が点いていて、それがまるでひとつ目の巨大な怪物がこちらを見ているような錯覚を覚え、エス雄は思わず目を反らしてしまった。
影になってしまったお城とは対照的に、城下に立ち並ぶ街灯群は眩しすぎるほど光っている。
睫毛に水滴が溜まっているせいか、それらの光は放射状に広がり、観光写真で見る函館の夜景のようにキラキラと輝いて見えている。
睫毛の先に広がった幻想的な光の中を歩くうちに、エス雄は少しだけ心がリラックスするのを感じた。
次の瞬間、突然吹いた強風に雨水が舞い上がった。
エス雄は、顔がびしょびしょになった。